カテゴリー「言語学史」の4件の投稿

アルパートフ氏の著書「言語学史」

今日はロシア語で言語学の歴史を勉強できる本を紹介します。日本語学者でも有名なアルパートフ氏による(В.М. Алпатов История лингвистических учений)著書です。古代の言語学から始まり、比較言語学の誕生と発展、その批判から生まれた構造主義、さらに生成文法や本居宣長や時枝誠記など日本の言語学の歴史までもうらしています(さすが日本語学者ですね)。もちろんのことながら、クルトネ、フォルトゥナートフ、ポリヴァーノフ、シチェルバ、メシチャニノフ、マール等々ロシア・ソビエトの言語学史も詳しく紹介しています。全体的な記載内容は以下のとおりです。

  • ポールロワイヤル文法

  • ラスク、ボップ、グリム等比較言語学の誕生

  • フンボルト

  • シュライヒャーの比較言語学

  • 青年文法学派

  • クルトネとフォルトゥナートフ

  • ソシュール

  • ジュネーブ学派

  • イェムスレウの構造主義

  • プラハ学派

  • アメリカ構造主義

  • ソビエト言語学(ペシコフスキー、シチェルバ、ヴィノクール、ポリヴァーノフ、ヤコヴレフ、モスクワ音韻学派、メシチャニノフ)

  • ヤコブソン

  • チョムスキー

ここで、ロシア・ソビエトの言語学史がなぜ重要なのか振り返っておきましょう。クルトネという構造主義の先駆者をはじめ、ヤコブソン、トゥルベツコイという音韻論者はもともとロシア出身だからです。ヤコブソンはモスクワ大学のドゥルノヴォ(ロシア語方言論、ロシア語史が専門)というフォルトゥナートフの弟子にまず従事しました。ヤコブソンの原点はロシア言語学と言っても過言でもありません。また、形態論の接辞、語根という概念も、形態論の豊富なロシア語の土壌があったからこそ生まれてきた概念です。まだまだ大事なことはありますが、後日書きたいと思います。故に、ロシア・ソビエトの言語学を抜きにして、言語学の歴史は語れないというのが私の持論です。

とても癖がなく、真の言語学の歴史にも触れることができる数少ない名著であると思います。ロシア語がわかる人で言語学史を知りたい人は是非読むべき著書だと思います。是非、読んでみたい方は、ロシアから入手するか、お近くのロシア語文献のある図書館を訪れてはどうでしょうか?

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ロシア語で書かれた言語学入門の名著

ロシア語で書かれた言語学の入門書は優れたものがいろいろとある。これは、ロシアの言語学者が自分の研究分野のみならず、若手の教育に力を入れている証拠であろう。日本では、残念ながら言語学全体を俯瞰するような名著は少ない。かつて、スラブ語学で有名な故・千野栄一先生であっても(どの著書かは失礼ながら思い出せませんが)「言語学全体を網羅する教科書を執筆するなど到底できるものではない」とおっしゃっていたのを思い出す。下記の検索結果を見ていただいても解るように、ロシアでは「言語学入門」と名の打ったものが沢山見つかる。

Ozon.ru - Результаты поиска по запросу «Введение в языкознание»

しかし、数多き良書の中から私は次の三冊をロシア言語学の入門書として推薦したい。共にソビエト時代に発行され、非常によく出来たものであり、現在でも言語学の入門書として再版を重ねているものである。近年では、お近くのロシア語の書籍を持っている図書館で借りる必要もなく、インターネット通販で日本へ発送もしてくれる。しかも返す必要もない。じっくりとロシア語で言語学を学べる時代になった。そのサイトについては、後述します。

 1. Ю.С. Маслов Введение в языкознание

 2. Б.Н. Головин Введение в языкознание

 3. А.А. Реформатский Введение в языковедение

1.のマースロフの教科書は、3書のうち最も完成度が高いと思われる。言語の本質から音声学・音韻論、語彙論、形態論、統語論、歴史・比較言語学、文字論まで網羅している。非常にオーソドックスな立場の癖のない言語学の入門書である。

2.のゴローヴィンの入門書も完成度が高い。マースロフとは異なり、言語学の歴史についても言及されている。

3.のレフォルマーツキーの教科書も健在である。初版が書かれたのが1960年代と少し内容に古さが目立つものの、レフォルマーツキー自体が「モスクワ音韻学派」の一員であることから、音声学と音韻論の項目も詳しく、ロシアの伝統的な言語学が凝縮された名著でもある。

最後に、ロシアから本を直輸入したい人のための情報を添付しておきましょう。

http://market.yandex.ru/catalog.xml?hid=90829

上記のサイトに本の名前、もしくは名前の一部を入力すると、どのインターネット本屋がいくらの値段で売っているのかなど検索結果が出てきます。そのインターネット書店に移動し、必要事項を入力し、発注をかけます。発注の仕方は、各サイトのヘルプ等を参考にしてください。サイトによっては、日本に発送不可のところもありますので注意してください。

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クルトネ大先生の功績

Photo_2 今日はクルトネ特集です。ロシア言語学の世界では、かのソシュール以上の大言語学者と位置づける人たちもいます。

ヤン・イグナツィ・ネェチスワフ=ボードワン・ド・クルトネ。BAUDOUIN DE COURTENAY Jan Ignacy Niecisławロシア語名: БОДУЭН ДЕ КУРТЕНЭ Иван Александрович (1845-1929)ポーランド・ラジミン出身

フランス系ポーランド人で、十字軍で活躍したボードワン家の子孫。帝政ロシアで活躍した世界に誇れる大言語学者。ポーランド人であるが、ワルシャワが当時ロシア領であったこと、ほとんどの学問活動がロシア(カザン、のちにペテルブルグ)で行われたこと、ロシア語で書かれた論文が非常に多いことなどでロシアの言語学者として数えあげられる。ソシュールと並ぶ構造主義の先駆者で、カザン大学時代に、言葉の記号性、音素と形態素の概念、共時態と通時態など構造主義の基礎概念に達していたという。ソシュールは、少なからずクルトネの影響を受けていたといわれている。しかし、カザンというロシアの辺境で活躍していたことなどから、ソシュールのように有名になれなかった。クルトネの作った学派(カザン学派、ペテルブルグ学派)からは、ポリヴァーノフ、シチェルバ、ヴィノグラードフなど多くの優秀な学者を排出している。また、対立関係のフォルトゥナートフのモスクワ学派の音声や形態論を研究する人物にも影響を与えた(トゥルベツコイやモスクワ音韻学派のメンバー)。

貢献:構造主義の基礎概念(言葉の記号性,形態素、および音素の概念,通時態と共時態の明確な区別,ラングとパロールの区別など),言語変化における経済性,音声学と音韻論の区別など

クルトネの構造主義的立場。クルトネは、1870年に「言語学と言語に関する一般的な覚え書」(некоторые общие замечания о языковедение и языке)で、初期的であるが、すでに構造主義立場による著作を著している。ソシュールの一般言語学講義は1916年。この時代はまさに青年文法学派の時代である。例えばソシュールは1876~1878年の間、青年文法学派の中心であったライプツィヒに留学している。

クルトネの音素の定義。クルトネは初めて言語学に音素という概念を導入した人物で、のちのプラハ、レニングラード、モスクワの諸学派の音韻論研究者に強く影響を与えている。ただし、3つの学派によって音素の定義は少しずつ異なる。クルトネ本人は、音素を心理的にこれ以上分けられない音の単位とした。つまり、人間が頭の中で認識できる音の最小単位と位置づけを行った。

クルトネの形態素の定義。クルトネは初めて言語学に形態素という概念を導入した。クルトネによれば、形態素は心理的に(人間の認識として)これ以上分けられない意味を持った最小の単位とされる。さらに、形態素を働きにより二つに分けた。いわゆる、語には欠かせない要素で比較的具体的な意味を持つ部分の語根とその語根に関係や別の品詞転換など様々な付随的な意味を付け加える接辞の区別を行った。クルトネによって基礎がしかれた形態素論は、その後言語によって詳細は異なるもののロシア語だけではなく多くの言語に応用された。ただし、接辞を語尾派生接辞にわけて、語形成語変化を明確に区別したのはフォルトゥナートフである。

クルトネの共時態と通時態。共時態と通時態の明確な区別はソシュールによって初めて行われたとされているが、この明確な区別はすでにロシアの二人の大言語学者によってそれぞれ行われていた。クルトネ以外のもう一人はロシアの「青年文法学派」(比較言語学者)として名をはせたモスクワ学派の祖・フォルトゥナートフである。クルトネとフォルトゥナートフは、時間を停止たものと仮定してその時点での言葉の有り様を問題とする言語の分析方法、つまりソシュールの共時態を、статический(静的)、もしくはописательный(記述的) と命名し、ある言語現象を時間とともにどのような変遷をたどってきたのか歴史上の事実を追求する方法、つまり通時態のことをдинамический(動的)、もしくはисторический(歴史的)と命名していた。

クルトネのラングとパロール。クルトネは個々人の頭の中に存在する言語と、社会上存在する抽象化された言語を明確に分け、前者はソシュールのパロールに後者はラングに相当する。そして、社会的抽象言語(ラング)はパロール(個人的言語)の集まりの中に偶然にして生み出されたものとして位置づけている。

クルトネの音声学と音韻論の区別。クルトネは音声学(фонетика)音韻論(фонология)という用語は用いなかったが、その明確な区別を初めて行ったとされる。言語の音には二つの側面があることに言及し、それぞれを扱う分野に名づけをしている。一つ目の分野は、антропофоника(人間音声学)とクルトネは命名し、どのように人間が言語音を発声するか、つまり我々の言うところの音声学に相当する。二つ目は、психофонетика (心理音声学)と名づけられ、ただの物理的な音の連続を人間がどのように頭の中で(心理的に)言語音として理解しているのか、つまり音韻論に相当する。

クルトネの言語変化における経済性理論について。クルトネは言語変化には5つの方向性があると主張した。その内容は、無意識的な習慣、言葉をより使用の楽な体系にしたいという気持ち、忘れること、同一の形式を用いる場合でそれを区別したいという無意識的な欲求の反映、一般化。日本語研究者で言語学史を専門とされるアルパートフ氏は、(マルチネではなく)クルトネこそ言語の経済性を初めて扱った人物で、20世紀の言語学者のポリヴァーノフ、ヤコブソン、マルチネがそれぞれクルトネの理論を発展させたと位置づけている。(Алпатов, В.М. История лингвистических учений p125)

クルトネ関連サイト(ロシア語が解る人向け)

カザン大学サイト  http://www.ksu.ru/index.php

カザン大学のクルトネ紹介ページ  http://www.ksu.ru/f10/courtenay/

カザン大学のカザン学派紹介ページ  http://www.ksu.ru/f10/publications/kls/index.php

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私が選ぶロシアの言語学者TOP10!

今日から仕事開始です。とても暑かったですね。

今日は簡単に有名なロシアの言語学者を簡単に紹介したいと思います。いろいろと学者さんがいますが、私の独断と偏見で10名選びたいと思います!さて、あなたは何人知っている?日本では知名度がなくても、ご当地ロシアではみんな巨匠と呼ばれてもおかしくない面々です。

ロシア語が分かって、パソコンで打てる人は以下の検索サイトからそれぞれの学者名を打ち込んで検索をかけると面白いかもしれません。http://www.yandex.ru/

学者の肖像画や詳しいプロフィール、師弟関係などはまた今度の機会に、、、

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БОДУЭН ДЕ КУРТЕНЭ Иван Александрович

ボードワン・ド・クルトネ 

1845-1929

構造主義の基礎、「音素」および「形態素」の概念 

ФОРТУНАТОВ Филипп Фёдорович

フォルトゥナートフ 

1848-1914

比較言語学、モスクワ学派の祖 

ПОТЕБНЯ Александр Афанасьевич

ホテブニャー 

1835-1891

言語と思考との関係について 

ПОЛИВАНОВ Евгений Дмитриевич 

ポリヴァーノフ

1891-1938

日本語学、言語の歴史的発展について 

МЕЩАНИНОВ Иван Иванович

メシチャニノフ

1883-1967

言語類型論、統語論 

ЩЕРБА Лев Владимирович 

シチェルバ

1880-1944

音韻論、レニングラード音韻学派の祖 

ВОСТОКОВ Александр Христофорович 

ヴォストーコフ 

1781-1864

スラブ語比較言語学 

МАСЛОВ Юрий Сергеевич 

マースロフ 

1914-1990

アスペクト論 

ТРУБЕЦКОЙ НИКОЛАЙ СЕРГЕЕВИЧ 

トゥルベツコイ 

1890-1938

音韻論 

Якобсон Роман Осипович

ヤコブソン

1896-1982

音韻論など

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