数学が代数学、幾何学、確率などに分けられるように、言葉を研究する際も、様々な分野に分けることができます。ソビエト時代に出版された大変優れた言語学のゴロヴィンの入門書には、一般言語学が扱う課題(分野)として次のような9つの分野が列挙されていますので、それを拝借いたしまして、言語学の扱う諸問題について簡単に概観したいと思います。
1. 言葉の本質的な特徴について
2. 言葉がどのように組み立てられ、構造的に分解できるのかについて
3. それぞれの構造がどのような性質を持っているのかについて
4. 言葉がどう変化(歴史的に発展)するのかについて
5. 文字の種類と特徴について
6. 世界の言語の分類について
7. 言語学の研究手法について
8. 言語学で研究された内容が実社会でどう応用されるかについて
9. 言語学と他の学問との関係について
以上、ゴロヴィンがあげた9つの項目はロシアの伝統的な言語学で問題とされるすべての分野を網羅しています。1-9までの項目を具体的に解説すると…
1の「言葉の本質的な特徴について」は、哲学や人類学、認知科学、さらに社会学など多数の他の学問に関わってくる大きな問題です。言葉を使用するということによって、人間が他の動物には不可能な高度なことができるようになっています。言葉とは何なのか、人間社会にどう関わっているのかなど言語哲学ともいえるべき課題について扱います。
2の「言葉がどのように組み立てられ、構造的に分解できるのかについて」は、我々の言葉がどのような構造的な体系を持っているのかを明らかにしていきます。先に答えを言ってしまいますが、我々の言葉は、階層構造をなしています。例えば、「私はショパンが好き」という文を例にとると、当然のことながらある意図を伝える形式です。この意図を持つ最小の単位である文はさらに分解することができ、語という単位に区切ると、「私・は・ショパン・が・好き」と5つの要素に分解することができます。さらに、「好き」という語(動詞)は、「すk」という語幹と「i」という語尾に分解できます。さらに、「すk」という語幹は、/s/と/u/と/k/という音素に分解することができます。このように我々人間の言葉は、企業に例えると文という会社あって、語という課があって、形態素という係があって、音素という平社員がいるというように、上下関係の組織のような構造をしています。
3の「それぞれの構造がどのような性質を持っているのかについて」は、例えば、さぎほど見たように言葉は最終的に/s/とか/u/とか/k/という音素とよばれる「原子」に分解されますが、例えば、/k/と/s/はどのような特徴で異なっているのか、また「私・は・ショパン・が・好き」の「は」という語は文においてどのような働きをしているのか、またロシア語のアクセントの特徴と働きとか、様々な言語を構成する要素の特徴と機能を研究する分野です。
4の「言葉がどう変化(歴史的に発展)するのかについて」は、太古の昔、人類がどのように言葉を生み出したのか、また古代から中世、近代にかけて社会の発展と共に、言葉はどのような変遷をたどってきたのかを問題とします。
5の「文字の種類と特徴について」は、私たちは言葉を使って物事を考えたり人と会話するみならず、文章を読んだり書いたりします。このように、言葉には書き言葉と話し言葉がありますが、書き言葉は文字が必要不可欠です。日本語においては、仮名や漢字を使いますが、外国語では別の文字種が使用されます。言語学では、文字の種類やその特徴、また歴史的な発展や、古代文字の解読なども行われます。
6の「世界の言語の分類について」は、世界には、ロシア語や英語、スペイン語など非常に多くの話者を持つ言語のみならず、ポーランド語やフィンランド語、ビルマ語など一国の公用語となっている比較的話者の多い言語、ウドムルト語やオセチア語、クルド語などある国の少数民族の言葉、さらに古代ギリシャ語やサンスクリット語、シュメール語、西夏語などの現代使われておらず、古い文献に残っている死語など存在します。しかし、それぞれの言葉はまったく異なったものではなく、例えば数多くの言語には品詞の区別があるとか、ロシア語とポーランド語の名詞には活動体と不活動体という文法範疇があるとか、相違点だけではなく類似点も数多く見受けられます。このように言語学では、多種多様にわたる世界の言語から類似点や相違点を発見し、ある基準をもとに分類することもひとつの目的です。このような研究は言語類型論(лингвистическая типология)と呼ばれます。
7の「言語学の研究手法について」は、言葉を研究する際にどのようなアプローチの仕方をすればよいのかを問題とします。哲学に唯物論と観念論という2つのまったく相対立する方法があるように言語学の研究方法にも様々な流派が存在します。
8の「言語学で研究された内容が実社会でどう応用されるかについて」は、応用言語学ともよばれます。例えば、標準語を制定したり、辞書を作ったり、外国語教授法に言語学の理論が応用されます。近年では、自動翻訳や音声合成による案内などコンピュータで言語処理を行う際にも言語学で研究された内容が反映されています。このような言語学の領域を応用言語学(прикладное языкознание)と呼びます。
9の「言語学と他の学問との関係について」は、その名の通りで、例えば言語学と歴史学とはどう関係があるのかという問題を扱います。言語はそれ自体独立した体系ではありません。例えば、あなたが家族と話をするとき通常敬語は使いませんが、会社という別の社会集団に入れば上司に対して敬語を使います。また、私たちは日本人ですから日本語を話していますが、ロシア人はロシア語を話します。このような事例は、我々を取り巻く社会的な環境によって言葉が影響を受けるという証拠に他なりません。このように言語学は社会学とかかわりを持っています。このような「社会学的な言語学」を社会言語学(социолингвистика)と呼びます。言語学は、社会学以外にも、歴史学、考古学、文学、芸術学、哲学、心理学、人類学、地誌など人文・社会科学はもちろん、物理学、生物学、医学など自然科学との関わりを持っています。
もちろん、言語学が扱う分野は細かく見ていくとこれだけではありません、いろんな分野が存在し、いろんな流儀が存在します。その紹介はまた後日のお楽しみということに、、、
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