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言葉は記号である④ 恣意性の検討

言葉は恣意的な記号である。このソシュールの言葉には、次のような反論がある。それは、擬音語というもので、猫の鳴き声の「みゃ~」とか、物をあさる音の「ガサガサ」という音声を言葉に表わしたものである。幼児語で、「犬」という意味を「ワンワン」という、鳴き声を真似た表現も、完全に恣意的であるとは言いにくい。

このような音を表わす言葉は、表わされるもの(音の様態)と表わすもの(擬音語)の有縁性が強く、必ずしも恣意的であるとは断言できない。やはり、いくら恣意的といっても、その度合いの強さもあるということであろう。

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言葉は記号である③ 言葉という記号の6つの特徴

  • 恣意的記号  能記と所記の間につながりに有縁性が無い

  • 音声的記号  音声による記号である

  • 構造をなす記号  組み合わせが可能である記号である

  • 線状的記号  順序が決まっている記号である

  • 概念的記号  具体的にひとつのものだけでなく、ある種のもの一般(概念)をも包括して表せる記号である

  • 抽象的記号  姿のない、もしくは定まってない抽象概念を表すことができる記号である 

恣意的記号。さて、言葉という記号は、イコン、インデックス、シンボルの3種類の記号のうちどれになるのでしょうか?そこで、昨日の表をもう一度ご覧下さい。 Obozna同じ「夜空に点々と輝く天体」という所記と能記との関係です。日本語では「ホシ」、ロシア語では「ズベズダー」、英語では「スター」、古代ギリシア語では「アステール」というように能記(つまり、記号)は言語が変われば異なっています。さらに、日本語の「ホシ」でもロシア語の「ズベズダー」でも何語でもそうですが、hosiとかzvezdaという音の集合は、と「平方根」と同じように、表される内容(所記)ののような姿とはまったく何を要因として結び付けているのかは動機がなにもない(つまり、有縁性が無い)ため、シンボル記号となります。ここでは、言葉を記号としてとらえた際、恣意的な特徴を持っていると紹介しましたが、恣意性を挙げるだけでは言葉はなど他のシンボル記号と区別がつきませんよね。次に、言葉は恣意性以外にどのような特徴を持った記号であるのか簡単に紹介しておきたいと思います。

第二の特徴として、まず、忘れてはいけないのは、言葉は音声的な記号ということです。つまり、空襲を知らせるサイレン(「敵が襲ってきたぞ」という表されるものを、「ウ~~~~」という音で表す)や、動物の鳴き声(猫はいやなことをされると、「ギャー」と鳴きますね。これは、「いやだ!」という感情を「ギャー」という音で表しています)となど同じく、音により何らかの意味を表す記号です。ここで、あれっ?と思われた方もいると思います。言葉は図によっても示されるのではないのかという疑問です。古代エジプトでは、言葉を記すのに次のようなヒエログリフを使っていました。Hero これは、イコン記号、つまり音ではなく図によって表現された言葉だという疑問です。ヒエログリフは極端な例ですが、世界の主要な言語には文字という、音という聴覚ではなく、図形という視覚で見る方法でも言葉を表す記号を使用します。しかし、ヒエログリフにしろ、漢字にしろ、ギリシア文字にしろ、文字という図形を音に置き換えて我々は認識しています。「あの花は美しい」と文字づらは書かれていても、頭の中で意味を理解するプロセスでは、音という記号に変換してその意味を認識しています。文字という図形で表さなくても、言語という記号は成り立ちます。その証拠に、文字が無い言語も存在しますし、文字を知らない子供は読むことは出来ませんが、言葉を話し聞くことは出来ます。このように、言葉は音声的な記号であります。

第三に、音による記号であるということを前提に、人間の言葉は音声記号を組み合わせることができるという特徴を持っています。先ほど猫の鳴き声の例を出しましたが、猫の鳴き声「ギャー」(いやなことをされたとき、不満を表す鳴き声)、「ファオ」(発情の際異性を呼び寄せる鳴き声)など数種類しかなく、「ファオギャー」のように組み合わせて、例えば「失恋してショックという感情」(笑)を表すということはできません。しかし、人間の言語記号はいくらでも組み合わせることが可能です。taは「田んぼ」を表し、kiは「木」を表しますが、それらを合体させてtaki「滝」という意味を表す記号を作ることができるのです。つまり、言葉は構造をなす記号体系です。この構造性については、すごく大事なことですので、後日解説します。

第四の特徴として、組み合わせが可能であるということを前提に、記号を組み合わせる場合、それには決まった並び方があるということです。「ここは」と「寒い」という意味・形式とも別の言語記号を同じ人が同時に発話するなんて聖徳太子もできませんよ。できたら神業です(笑)。「ここは・寒い」のように、「ここは」が先に来て、「寒い」が後に来ます。つまり、言語記号を組み合わせる際、時間的に前後ろという順序をつけたり、文字であれば空間的に横や縦に並べることによって記号を組み合わせます。その証拠に、記号を組み合わが逆になると、表す意味が変わるということも起こってくるわけです。「利き」と「手」という記号を組み合わせて、あらたな意味を表す複合記号を作るとします。まず、「利き手」とした場合は「何かをするときに通常使う手」という意味になりますが、逆の複合記号を作った「手利き」の場合、その表す意味は「特技などのうでが優れていること。また、その人」を表す意味となります。このように、言葉という記号体系は、それを構成する下位の記号が同時に現れるのではなく、ある定まった順序沿って並んでいます。このような、特徴を線状性(линейность)といいます。

第五の特徴として、音声記号で表すだけではなく、言葉は概念(понятие)を表すことができる記号です。概念とは、本質的な特徴だけを抽出したものを概念といいます。具体例を出すと、「りんご」という形式(能記)で、この世に存在する全てのりんご、200422018:00に青森のAさんの農園で取れたもの、1年前にスーパーで売り出されているもの、今あなたが食べかけのもの、100年後消費されるものすべてひっくるめてありとあらゆるりんごを「りんご」という記号で表すことができます。言い換えれば、りんご一般(りんごという概念)を「りんご」という形式で表すことができるということです。

第六の特徴として、概念を表すことができるということを前提に、言葉は姿かたちがない抽象的なものをも表すことができます。まあ、言葉はそういう記号ですので、人間は事実とは異なることを話す、つまり嘘をついたりできるのです。まあ、それはさておいて、言葉はシンボル記号、つまり能記と所記の結びつきが恣意的な記号であるため、これによって我々は、猫や天気など具体的に映像に出来る概念だけではなく、人間性、やさしさ、真理など映像にはできない高度な抽象概念をも作り出すことが出来ます。このような抽象概念には、姿というものはありませんので、言葉という恣意的な記号の力の借りる必要があるということです。

最後に、言語学の歴史において、言葉の記号性について初めて言及したのは、ロシアの言語学者のボードワン・ド・クルトネとその弟子のクルシェフスキーであります。しかし、ロシア以外では、またロシアでも大半の言語学者の認識としては、ソシュールの「一般言語学講義」が言葉の記号性をはじめて説いた著書とされます。ただし、「言葉は恣意的な記号である」とは必ずしも言えない例があります。それについては、次回検討しましょう。

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言葉は記号である② 所記と能記

さて、前回の続きで言葉の記号性についてみていきます。「言葉は記号である」という前提に立ち戻ると、言葉には表されるものと表すものの二つの側面が存在するということになります。さて、言葉は何が表されるもので、何が表すものなのでしょうか?以下の表を見てください。なお、表が小さく表示されていますが、クリックすることにより拡大されて別ウインドウで表示されます。

Oboznaまず、「夜空に点々と輝く天体」という表される意味があります。その意味を、日本語ではhosiという音の集合体や「星」という文字)を「夜空に点々と輝く天体」の意味に当てています。つまり、hosiという音声や「星」という文字は表すもので、「夜空に点々と輝く天体」という意味は表されるものということになます。我々は何かを言葉で伝えたり考えたりする際、その意図や意味(表されるもの)を、音や文字(表すもの)という記号に変換しているということです。言語学では、表される意味や意図を所記(обозначаемое)、それを表す音や文字という形式(記号)を能記(обозначающее)といいます。

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言葉は記号である 記号の種類

「言葉は恣意的な記号である」。かの有名な言語学者・ソシュールの言葉ですが、その賛否は別として、今回は記号の種類について解説しましょう。

イコン(знаки-иноны)。インデックス(знаки-индексы)。シンボル(знаки-символы)記号論の概説書には記号にはこの三種類があるとありますが、これっていったい何に基づいて区別しているの?ということなんですけど、これは有縁性(мотивация)の強弱です。これを読んでいるみなさんは、今度は「有縁性」だと!?また話がややこしくなったぞ!言葉は記号であるということを理解するためには説明がこんなに難しいのか!とそろそろ思っているかもしれません。でも、このように段階を踏んで説明していくのが、私のやり方であますので、もう少し我慢していただきたいです。「有縁性」という文字の中に「縁」という言葉があります。日本語には縁にまつわる次のような表現があります。「縁あって同じ職場で仕事をする」、「縁がないと結婚できない」とかですが、「縁」とは何かと何かを結びつける要因だということです。そして、縁には強さがあります、分かりやすい例を出すと、我々は多くの人と関わって生きていますが、その付き合いには段階があります。家族のようにすごく身近な存在で多くの時間を共に生活する人もいれば、友人のように家族に比べてある程度の距離を置く人がいて、知人という友人よりもっと距離を置く人、ここまでは付き合いのある人(つまり、自分にとって関係がある人)ということですが、世の中には自分と何もかかわりの無い人がいっぱいいます。ロシアのシベリアの村の中だけで暮らす人と太平洋の真ん中の島国に住んでいて、それぞれ自給自足して、その地域からまったく外に出たことがない両者には何も縁がないというわけです。もうお分かりですね、有縁性とは、表されるものと表すものの二つの関係を結びつける要因の強さの尺度ということになります。まったく結びつける要因がない関係のものから、すこしあるかなあ?というものから、まああるもの、さらにすごく強いものまであるというわけです。さて、余談ですが、有縁性という概念は、すごく言語学に大事な概念で、これから何度も出てきますので、楽しみにしておいてくださいね(笑)。

さて、イコン(знаки-иконы)、インデックス(знаки-индексы)、シンボル(знаки-символы)3分類される記号は、先ほど説明した有縁性の種類によって分類されたものということです。つまり、表すもの(文字や絵や写真)と表されるもの(意味や物体そのもの)の間を結びつける「絆」がどのような性質であるのかということに置き換えられます。さて、イコンとインデックスとシンボルとはどう違うの?という疑問に答える前に、それぞれの記号の具体例を挙げておきましょう。

●イコンの例Neznak1_2

●インデックスの例Tenki_2

●シンボルの例Root_2

イコンは、表すものと表されるものがかなり似ていて、有縁性が強く見られる記号です。上の表で示した、猫の絵画は猫の特徴をかなり忠実に再現しています。イコンという記号は、表されるものと表すものの有縁性が強くかつ直接的につながりを持っているという特徴を持っています。しかし、より現実にすごく忠実なものから、あまり忠実でなく本質的なもののみを取り出したものまであります。温泉の風景を写真に写したもの、絵画に描いたもの、そして地図上で温泉を示すマークはすべてイコン記号になりますが、後になるほどその有縁性は低くなります。一番最後の「温泉」という表される意味がという丸いところから湯気が三本出ている様子で表している記号で表されていますが、これはここの温泉の場面ではなく、と曲線というかなり抽象的なものとして、その代わり絵画よりもものすごく簡略化した記号であります。また、古代エジプトのヒエログリフな表意文字などもイコンの例です。

イコンが直接的に有縁性が結び付けられる、つまり、記号と表されるものとの間に直接的な姿での関連性が見られますが、インデックスは、表されるものと表すものとの姿の有縁性が直接的ではなく、間接的であることを特徴とします。つまり、インデックスは、例えば太陽の記号がそのまま太陽という意味を表すように使わず、その太陽の描かれた記号を手がかりに「晴れ」という別の意味を引き出すという特徴を持っています。さて、なぜこのようなまわりくどいことをするのでしょうか?「晴れ」という気象現象を表すのなら、直接表せばよい、例えば晴天を描いた図を使ったり、雲が少ない状態だから雲の絵を描いてそれに否定を表す×を加えればよいと思われるかもしれません。しかし、まずここで思い出していただきたいのは、人間はあるものをとらえるとき時、直接それを表現するだけではなく、何か似たようなものに例えてとらえることがあります。例えば、「机の脚」という表現がありますが、脚とは通常人間の体の一部です。しかし、現に「机の脚」という表現は間違いかというとそうではありません。机を人体に例えて、それを支える部分という特徴の類似点を見出すということもしているわけです。このように、「晴れ」という現象を表す記号を「晴れだったら太陽が雲に隠れず天球に見える太陽は晴れの象徴である晴れという意味を表すのに太陽というイコン記号を使用する」というように、表すものと表されるものとの間に連想的で間接的で比喩的な有縁性を持つというのが、インデックス記号の特徴です。

最後のシンボルはまったく表されるものと表すものとの間に有縁性が見られないという記号です。例えば、数学の記号や化学記号、論理記号などがそれに当たります。という記号は平方根を表しますが、表すものであるという記号と表される意味の「平方根」という間には、イコンやインデックス記号で見られたような姿でのつながりや連想でのつながりを持っていません。つまり、という形に「平方根」という意味を与える際、任意に意味と記号との結びつきを選択したということです。もしかしたら、+が平方根という意味を表す記号であったかもしれません。このような表されるものと表すものとの間に何も有縁性が無いというなどの記号のことを、難しい言葉で恣意的な(произвольный)記号といいます。以上、記号とは何かという問題を説明してきて、いろんな種類があるということがわかりましたが、記号の本質は表すものと表されるものの二つの側面を持つということです。この大原則をもとに、いよいよ言葉の記号性について次回は検討していきましょう!

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